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将棋話──今年の最優秀棋士は渡辺か!?──漏れてしまったNHK杯戦の結果

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 40日ぶりのインターネットで、わたし的に印象的な出来事は「佐藤が王将位を渡辺に奪われたこと」になる。棋王も奪取までもう一歩のようだ。元々私は渡辺がふたつの棋戦の挑戦者になったとき、今の勢いからして、「王将、棋王を奪取。渡辺三冠誕生」と読み、順位戦も羽生が挑戦者となって森内から名人を奪取し、羽生名人四冠、渡辺竜王三冠というふたりの時代になると予測していたから、読み通りの結果ではあるのだが、あの佐藤康光がいいところなく4対1で完敗したのはショックだった。(まだ棋譜を見ていないから、結果だけから完敗と断言するのは早計だが。)
 
 渡辺の竜王九連覇の価値は、森内から奪い、佐藤、羽生という最強の挑戦者連を退けていることだ。佐藤も二度挑戦して阻まれているし、年齢からして実力はもう逆転していたのかもしれない。しかしまた渡辺が「竜王戦だけは強い」のも確かだった。こんな一方的な結果になるとは……。まさにいま渡辺は最強の時季なのだろう。



 NHK杯戦決勝も気になっていた。昨年に続き「羽生対渡辺」の決勝と知る。3月17日放送だ。果たして羽生の「NHK杯五連覇」はなるのかと気になる。今からもう録画予約しておこうか。

 というところで2ちゃんねるの将棋板を覗いたら、「最優秀棋士」に関するスレがあった。そこを読んで驚愕する。このNHK杯戦決勝で、羽生が渡辺に負けたらしい。五連覇を阻まれ渡辺初優勝のようだ。書きこんでいるひと全員がそれを既定の事実として、その上で今年の最優秀棋士を予測している。ガセではない。どうやら間違いのない事実のようである。どういうことなのだろう。何が起きたのか。

 NHK杯戦は録画だが、放送まで結果を知らせない。いくら箝口令を敷いても人の口に戸は立てられず、どこかから漏れてしまうと思うのだが、その守秘力はなかなかのもので、私なんぞは毎年結果を知らないまま、手に汗握ってNHK杯戦決勝を見ている。それはそれでいいことだ。
 今年はどうして漏れてしまったのだろう。いま興味があるのはそれになる。これから調べてみるところ。将棋的には羽生の五連覇が阻まれ、渡辺時代到来かという大事件である。さすがに伏せきれなかったのか。どこから流出した情報なのだろう。

 複雑な気分だ。日曜の楽しみが消えてしまった。観るのがつらい。知らなきゃよかった。なんで2ちゃんねるなんか覗いたんだと悔いる。あと二日、そんなことをしなければ今年もまた手に汗握って観戦できたのに。
 しかしまた考えようによっては、知らないまま観ていたら、その結果に愕き、ひどく落胆したのは確実だから、前もって知ってよかったのか。いやいややはり知らない方が……。



 昨年、私は最優秀棋士は渡辺だと思った。羽生の歴史的快記録王座20連覇を止めたのである。竜王を八連覇し、王座を奪取して二冠になった。
 羽生は、名人位と王座を失冠した。保持している棋聖と広瀬から奪取した王位の二冠のみとなった。まあ「二冠のみ」なんて言いかたはへんなのだが、羽生の場合はそうなる。その他の棋士だと「なんと二冠も!」だが。
 同じ二冠であり、羽生にはその他の棋戦優勝というプラスポイントもあったが、渡辺の二冠は↑であり、羽生は↓だ。印象に差がある。だからもう最優秀棋士は渡辺で決まりだと思った。

 しかし羽生は年度末にまたすごいことをした。NHK杯戦四連覇による通算10回優勝、あの大山ですら成し遂げられなかった「名誉NHK杯」となったのだ。早指しのトーナメント戦(=一度の負けも許されない)でのこれは絶大な価値がある。

 羽生は大山の棋戦優勝80期を越え、いま83期だが、これは大山全盛期の棋戦の数を考慮すれば、まだまだの数字といえる。羽生はデビュー時から「七冠時代」だったが、大山の二十代は二冠(名人、王将)のみである。この差は大きい。100期獲得でやっと並ぶぐらいだろう。羽生はまだタイトル獲得数で実質的に大山の数字を超えていない。その大山ですら出来なかった、この永遠に誕生しないのではないかと思われた「名誉NHK杯」を獲得したのは偉大な業績になる。



 そういえば昨年も今ごろ、その2ちゃんねるの「最優秀棋士」のスレを読んだのだったと思い出す。いや、もうすこし前になる。NHK杯戦の結果が出ていないころだ。毎年同じようなことを書いている(笑)。
 そこでは圧倒的に羽生優勢の意見が多く、私には意外だった。あらためて「羽生人気、渡辺不人気」を知った。私は羽生ファンだけれど、多くのひとの意見を読んでも、「今年は渡辺」という考えは変わらなかった。何と言っても王座戦の20連覇を止めたのが大きい。同じ二冠でも、「誰かから王座を奪取して二冠になった」とは意味が違う。
「今年も羽生だ。羽生に決まっている」という意見を、私は羽生ファンの身贔屓と解釈した。そしてまた思ったのは、「王座戦20連覇を止めた渡辺が今年取れなかったら、いったい誰が、いつ取れるんだ!?」だった。

 しかし将棋関係マスコミの投票による結果は私の予想とは大きく違っていた。NHK杯戦の結果が出てからは、「羽生になるかも」と私も思っていたが、それでも接戦だろうと思っていた。ところが票数は「13対4」と圧倒的だったのである。正直、私はこのときも「羽生ファン」というものを感じた。この投票権をもつ人たちに対してである。ここでも渡辺の不人気を感じた。
 ファンというよりも人徳と言った方が適切か。それだけ羽生の将棋観に魅入られているひとが多いのだろう。そしてまた渡辺には、将棋は強いけれど、まだそれがないのだ。



 競馬のほうでは昨年、皐月賞、菊花賞、有馬記念を勝ちながら「年度代表馬」になれなかったゴールドシップという馬がいた。これもかなりの「歴史的出来事」である。今後もこんな成績を上げながら年度代表馬になれない馬は出まい。年末のオールスター戦である有馬記念で古馬を破ったクラシック二冠馬が年度代表馬に撰ばれないというのはとんでない珍事である。
 でも私も、假りに投票権があったなら、3歳牝馬で史上初のジャパンカップ優勝を果たしたジェンティルドンナに票を入れたろうから、これはこれで割りきれる。

 私はゴールドシップの大ファンなのだが、それでも年度代表馬はジェンティルドンナだと思った。当たった。
 同じく、私は羽生ファンなのだが、最優秀棋士は渡辺だと思った。外れた。
(念のため。ゴールドシップの場合は2012年1月から12月までの成績であり、ここで取りあげている〝昨年〟の羽生と渡辺の場合は、2011年4月から2012年3月までの成績であるから、同じ「昨年」と言っても時間差がある。感覚的には羽生渡辺の場合は一昨年だ。)



 羽生登場以降、「最優秀棋士」とは羽生のものだった。それを止めたのは、谷川(2回)、森内、佐藤のみである。1989年以降、その4回を除いてぜんぶ羽生なのである。ここ5年も羽生が独占している。常に複数のタイトルを所持している羽生がいるのだから、それを越えて受賞するのは並大抵のことではない。谷川も森内も佐藤も、誰もが納得するすばらしい結果を出して受賞している。

 今年、渡辺が郷田から棋王を奪取すれば、竜王、王将、棋王(挑戦者決定戦で羽生を破る)の三冠となり、その他、朝日杯(準決勝で羽生を破る)、NHK杯優勝(決勝で羽生を破る)だから、これはもう文句なしだろう。同じく羽生も、王位、王座、棋聖の三冠であり、その渡辺から王座を奪還しているが、竜王位の格と、年度末(年明け)に一気に二冠を奪取した勢いで、いくら投票記者に羽生ファンが多くても、これはまちがいないと思われる。

 問題は棋王奪取に失敗した場合である。すると羽生三冠に対して渡辺二冠である。タイトル数では劣る。私はそれでも、竜王九連覇、王将位奪取の二冠、NHK杯戦優勝(羽生の五連覇を防いだ)で、渡辺だと思う。いまは五番勝負で1勝2敗と追いこまれた郷田棋王にがんばれと声援を送るのみ。

---------------

【追記】──羽生、渡辺に完敗──2013/03/17

 NHK杯戦決勝を見た。2ちゃんねる「将棋板」からの推測通り「羽生負け、渡辺初優勝」だった。あらかじめ羽生敗戦を知っていたから、あまり見たくなかったが、どんな将棋になるのだろう、いや「だったのだろう」と興味を奮い立たせて、見てみた。

 内容は、ここのところ対渡辺戦によくある「息切れ完敗」である。王手を掛けられ詰まされたのではなく、それ以前の投了だった。
 しかし、そういう「大事な一戦」にも「実験的試み」をする羽生に感嘆した。なんともそれがうれしかった。もしも羽生に「五連覇したいという護りの意識」があったなら、羽生は後手番として、今まで渡辺と五分に戦えてきた戦法を選んだろう。一流棋士で唯一負け越している相手ではあるが、完勝譜だっていくらでもあるのだ。

 でもこのひとは、こんな場でも、あらたなことを試みる。渡辺という、唯一自分の座を脅かす年下の棋士と闘える喜びを優先する。結果は、息切れ完敗であり、失礼ながら凡戦ならぬ凡棋譜だったが、羽生善治の将棋道への想いは充分に伝わった。

 私が、私には理解できない天空にあるこの天才棋士に求めているのはそれである。もしもここで羽生が、過去の戦歴から、対渡辺戦で、有功と思われる戦法を採択して五連覇を成し遂げたとしても、私は逆に「羽生もそんなことをするようになったのか」と解釈して失望したろう。

 羽生善治は42歳の今も、七冠完全制覇を成し遂げた25歳の、いや竜王を奪取した19歳の精神をなくしていない。そのことを確認した、悔しいけどうれしい敗戦だった。
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