スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

「最も遠い銀河」白川道──感想・「クライス・レリアーナ」・喫煙



 白川道八年ぶりの書きおろし大作「最も遠い銀河」を読んでいた。下巻の中ほどにシューマンの「クライス・レリアーナ」が出て来た。演奏者はマルタ・アルゲリッチ。

 そこの部分は以下のようになっている。深夜、海に向かう白いベンツ内での会話。

《「音楽、嫌いですか?」
「いや、好きといえるほど聴くわけではないが」
 李京愛がカーステレオのスイッチを入れた。クラシックのピアノの曲だった。
 静かで愛情に満ちた旋律だった。時間を呑みこんだような車内と、窓の外の暗い景色とも、どこか似合っていた。
「これは、なんという曲です?」
「シューマンの『クライス・レリアーナ』です。弾いているのはアルゼンチンの女流ピアニスト、マルタ・アルゲリッチという
女性(ひと)なんですが、私の大好きな曲なんです」
 一瞬迷いを浮かべてから、シューマンが愛妻のために作曲した曲です、と李京愛は言った。》




 ここで本を置き、私もSchumannの「Kreisleriana」を聴くことにした。Martha Argerichも持っているが、この曲に関しては私はKlara Wurtz(クララ・ヴルツ)の方が好きなのでそちらにした。

「クライス・レリアーナ」を、白川さんは「静かで愛情に満ちた旋律」と書いているが、8曲で構成されているこの作品は激しいのと静かなのが半々ずつ。私にはむしろ「情熱的な激しい曲」のイメージの方が強い。「愛妻のために作曲した」は有名な逸話だが、最愛の妻に愛を込めて捧げた音楽、という安定期のものではない。むしろ「周囲から結婚を反対され悩んでいる時期に恋人(後の妻)のために作った愛と懊悩がいり交じった狂おしい曲」ぐらいのほうが当を得ている。「クライス・レリアーナ=静かで愛情に満ちた旋律」はあまりに一面的解釈だろう。このときカーステレオから流れてきたのが静かな方だったのだから音楽に詳しくない主人公の素直な感想に罪はないが。

 在日朝鮮人の超美人ジュエルデザイナー李京愛(という設定の登場人物)は、どんな形でCDをセットしたのだろう。単にCDを再生したのなら1曲目の激しい曲が流れてくるからこの感想にはならない。「カーステレオのスイッチ」とあるので一瞬FM放送から偶然流れてきたのかと思ったのだが、アルゲリッチの説明までしているから、やはりこれは李京愛の愛聴CDなのだろう。よくわからん設定である。李京愛が激しいのと穏やかなの半々の「クライス・レリアーナ」から穏やかな半分だけを選んで編集した特製CD(MD)を流した、とすると感想は成立するが、そんなことはあるまい。白川さんが錬りに練って登場させた小道具にこんなふうに突っこむのは不粋か。もうやめよう。

 この後また本に戻ると、このときに感銘を受けた主人公は、このCDを買って愛聴するようになる。作者の実体験のように感じた。

 読者にも「クライス・レリアーナ」をこの小説で知って購入するひとがいるはずだ。浅田真央によってハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」が売れたように、まちがいなくテレビドラマになるであろうこの作品の影響でシューマンの「クライス・レリアーナ」が注文を浴びたらいいなと思う。テレビでは印象的に使うはずだから話題になるだろう。感想はひとそれぞれだが、私は聴いている今も、この曲は穏やかよりも烈しさだと思う。



 本の中にいい形で音楽が登場すると猛烈にそれを聴きたくなることがある。またあまりに登場具合がほどいいと、頭の中に音楽が流れ実際に聴かなくても満足してしまう作品もある。逆にまたしったかぶりでこれでもかというぐらい登場し、薬味のはずのそれが足を引っぱり、読む気が失せてしまうものもある。

 この作品の場合はそのどれとも違う。ぶ厚い上下巻なのにそれまで音楽がまったく出て来なかった。そしてまたこの著者の一大特徴だが異常に喫煙シーンが多い。登場人物はタバコを喫い、なにか悩みに突きあたるとウイスキーばかり飲んでいる。クライマックスにさしかかったところなのに、この「クライス・レリアーナ」を見て、これさいわいと腰を上げたのは、煙くてヤニ臭い環境から逃げだしたかったからでもある。

 白川さんはそこのところをもうすこし考えた方がいい。というか編輯者は注意してやれ。いまAmazonのレビュウを読んでいたら、「白川さんが大好きで全作品を読んでいる」という愛読者が、「でも喫煙シーンが多すぎないか」と苦言を呈していた。大ファンですらそうなのだ。事態は深刻なのである。バカらしくて読めないというひとすらいる。御自分がヤニ中なのはかまわないが、登場人物をみな自分と同じにしてしまうのはおかしい。

 両親のいない貧しい環境から成り上がるストイックな美青年が主人公なのだから、喫わない方が人物像として適切だろう。まして彼は一時新宿でカツアゲ等をする不良のリーダーだった。高校へも行っていない。この当時はヘビースモーカーだったろう。そこからすべてをやり直すのだと汚れた過去と縁を切り、大検を受け、22歳で大学に入り、大学院へと進学し、エリート建築士の道を歩むのだ。汚れた過去と縁を切った、人が振り返るほどの美男子である彼が、やたら意地汚くタバコを喫う様は不自然だ。彼には人一倍の克己心がある。なら真っ先に縁を切るのがタバコだろう。二十歳過ぎに大検を受けるための受験勉強を始める。同棲している恋人は朝早くから夜遅くまで食堂で働いてそれを支える。彼の部屋には深夜まで勉強のための電気が点いていた。その彼が吸い殻を灰皿に山盛にして勉強していたと思うのは白ける。汚れた不良時代に別れを告げ、新たに生きると決めたとき、チンピラのアイテムであるタバコを真っ先に止めたという流れの方が自然だ。
 この美男子主人公がタバコを喫えば、それを追う元刑事、それに協力する元部下の現役刑事、みんな喫う。そこら中タバコの煙だらけ。刑事連中を喫煙者にしたなら、なぜ主人公を喫わないように対比設定できないのか。



 タバコを喫わない主人公を描けないのは白川さんがタバコをやめられないひとだからだ。白川さんはこれからの残された人生を、今までの寡作主義を捨て多作主義で臨みたいと言っている。やる気満々だと。それは楽しみだけれど、どんな新作も、主人公は町中でも海辺でも喫茶店でもベッドでも、これまでの作品の主人公のようにやたらタバコばかり喫っている男なのだろうかと思うと期待がしぼむ。いや男に限らず女の登場人物も異様に喫煙率が高い。なんなのだろう、このひとのヤニ中毒は……。これはもう致命的缺陥と言える。
 誤解のないよう書いておくが、それは私のタバコ嫌いとは関係ない。小説のシーンとして登場回数が異常であり、作品を壊していると言っているのだ。純な小説論議である。だから例えば、タバコがワインや珈琲だったとしても同じ事を書く。あるいは音楽でも同じ。とにかくタバコを喫わないと場面転換が出来ないほど頻繁に、しかもワンパターンで登場するのは異常としか思えない。症状は深刻だ。
 とはいえ以前の作品と比べれば激減した。ずいぶんとよくなった。以前の作品のひどいものになると、それこそ大袈裟じゃなく見開きに一回は喫煙シーンが登場した。あきれて読み進められなかったほどだ。

 おかしかったのは、「天国への階段」等と比べると喫煙シーンは十分の一ぐらいに減っているのだが、その理由のほとんどが作者の意図ではなく「その場所が禁煙だから」だったことだ。登場人物は以前の作品と同じようにいつでもどこでもすぐにタバコを取りだすのだが、時代の流れで禁煙の場所が多くて喫えないのである。さすがにその辺は小説として辻褄を合わせるため作者も喫わせない。それはロケハン等で実体験したのだろう。ホテルのバーに行ってウイスキーを飲む。タバコを喫おうと取りだすが禁煙なのでポケットにしまった、なんて箇所を読むと時の流れを感じた。でもそのあと、店の外に出るとそそくさと取りだして火を点けるのである。これまたヤニ中毒の作者の実体験から来ているのだろう。いらないシーンだ。



 白川さんは音楽に詳しくない。ヒット作「天国への階段」が有名だがツェッペリンファンではない。小道具としての登場だ。ご本人も認めている。愛聴するのは本来演歌系のひとである。私も(すぐれた)演歌は大好きだからこれは否定的な言いかたではない。音楽に詳しくないかただからこそ、事実婚をしている相方からのサジェストなのか、かつての女との思い出なのか、こんな形でひょいと顔を出す音楽が楽しい。これはこれでとっておきの隠し球であり大見得なのである。

 私が「クライス・レリアーナ」の箇所を読んですぐに聴きに走ったのは、見事に白川さんの手の平で踊ってしまったとも言える。でも正直それよりもタバコの煙から逃げたかった。

 本の感想はまたあらためて。
 というか、私はこのひとのどんな作品を読んでも、最初の感想は「タバコばかり喫うのをなんとかしてくれ」になってしまう。なんとかしてくれ。



------------------------------



【附記】

 マルタ・アルゲリッチと別府の関係はすばらしい。こういう形で「文化」を根づかせたことは別府市の誇りであろう。一度行ってみたいものだ。私は彼女の生演奏を聴いたことがない。どうせなら別府のこの祭で体験したい。



 別府アルゲリッチ音楽祭

------------------------------

続きをホームページに書きました。お読みください。

●http://monetimes.web.fc2.com/ez-hon10.htm
  1. 2010/02/18(木) 10:19:38|
  2. 白川道
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<浅倉久志さんの死・「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」・「ブレードランナー」 | ホーム | 「藤堂白川論争」──「ユリイカ」白川静特集>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://moneslife.blog.fc2.com/tb.php/950-19008366
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

fc2moneslife

Author:fc2moneslife
2001年に始めたサイトMone's World--http://monetimes.
web.fc2.com/の出張版ブログ【木屑鈔】Boku-setsu-shouです。
2005年からやっていたライブドアブログから引っ越してきました。
FC2のサイトは2007年から利用させてもらっていました。これでやっとサイトもブログもFC2で統一です。
メールは、moneslife2000
@kpe.biglobe.ne.jpまで。

最新記事

カテゴリ

未分類 (0)
大相撲 (32)
落語 (6)
生活 (85)
パソコン (78)
ことば (41)
読書 (29)
音楽 (50)
政治 (200)
テレビ (27)
インターネット (91)
漢字 (6)
オリンピック (11)
マスコミ (46)
NHK (2)
プロレス (6)
世相 (91)
総理大臣 (7)
映画 (21)
スポーツ (8)
園芸 (3)
将棋 (71)
Jazz (7)
競馬 (20)
芸能 (32)
旅行 (10)
格闘技 (4)
漫画 (14)
橋下徹 (16)
タバコ (4)
Rock (2)
中共 (11)
宗教 (9)
週刊誌 (7)
皇室 (9)
地震 (39)
台湾 (5)
石原慎太郎 (10)
CM (2)
きっこ (23)
地デジ (7)
朝鮮 (23)
国民栄誉賞 (2)
ツイッター (8)
女子サッカー (1)
野田聖子 (9)
訃報 (10)
ブログ (11)
飲食 (11)
電王戦 (2)
竹島 (9)
靖國神社 (6)
デヴィ夫人 (6)
酒 (4)
節電 (1)
ホッピー (5)
小沢一郎 (9)
Windows8 (2)
たかじん (5)
島耕作 (1)
物品 (3)
テレサ・テン (2)
選挙 (8)
佐川急便 (8)
猫 (1)
白川道 (1)
サヨク (14)
麻雀 (1)
郵便 (1)
通販 (1)
Asus Memopad (1)
文章 (2)
携帯電話 (1)

月別アーカイブ

カテゴリ別記事一覧

検索フォーム

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。