相撲話──大鵬の思い出⑥──大鵬の32回、千代の富士の31回①──大鵬最後の優勝の秘話


 大鵬に関する思い出はたくさんあるが、文章として読んだものとして、以下のエピソードがいちばん記憶に残っている。大鵬最後の優勝32回目のときの裏話である。1971年、昭和46年の初場所。


 13勝1敗だった大鵬は、千秋楽の本割で、14連勝の後輩横綱玉の海を破り、14勝1敗で並んだ。優勝決定戦になる。
 このとき玉の海のところに使者が飛んだ。
 
 双葉山の連勝以外、相撲界のあらゆる記録を塗りかえた大鵬にも落日の影が差していた。通算の対戦成績は圧倒的であれ、ここのところ後輩の玉の海、北の富士に負けることが増えていた。ここまで四場所優勝から遠ざかっている。番付もずっと西横綱である。
 
 一方、27歳の玉の海はこのときが絶頂期。横綱になって三場所目。ここ二場所連続優勝している。本割では負けたが決定戦では確実に勝てる自信があった。大鵬のスタミナは切れている。
 使者の申しこみは、これが大鵬の最後の優勝のチャンスだから、今回は譲ってやってくれ、というものだった。

※ 

tamanoumi 玉の海は最初それを拒んだ。大鵬は二所ノ関一門の兄弟子であり、新人時代から稽古をつけてもらった。大鵬に稽古をつけてもらって強くなった。横綱に昇進したときは土俵入りの型もつけてもらっている。最高の恩人である。なんど挑んでも適わない大きな壁だった。それがやっと勝てるようになり、自分がいま東の正横綱として君臨している。
 
 負けてくれという申しこみは受け入れがたかった。決定戦で勝ち、三場所連続優勝を成し遂げたかった。それは確実に出来るはずだった。
 だが「おまえはこれから何度でも優勝できる。大鵬関はこれが最後なのだ」と説得されれば、受けいれざるを得ない。それが相撲界である。
 決定戦は大鵬が勝ち、32回目の優勝を成し遂げる。敗れた玉の海は勝負のあとの風呂場で号泣した。泣き声は風呂の外まで聞こえてきたという。

 その二場所後、大鵬は体力の限界を理由に引退した。やはりあれが最後の優勝となった。
 引導を渡したのは新鋭の小結貴ノ花だった。その貴ノ花が引退を覚悟したのが新鋭千代の富士との一番であり、大横綱千代の富士に引導を渡したのが息子の貴乃花だった。横綱の引退にはそんな次代のヒーローとの引継ぎがある。
 引退相撲の土俵入りでは、玉の海と北の富士という両横綱が太刀持ちと露払いを務めた。
 翌場所、玉の海は当然のごとく優勝し、北の富士との北玉時代到来と謳われたが、半年後に急逝してしまう。



 なお、この玉の海は朝鮮人である。先日引退した理事長を務めた武蔵川親方こと元横綱三重ノ海も朝鮮人である。その前の理事長佐田の山も朝鮮人である。半分ロシア人の大鵬と純粋朝鮮人の玉の海の優勝決定戦だから、べつに小錦だのモンゴル人だのと今更騒がなくても、もうずっと前から相撲界は国際的だったことになる。 


 私は、大鵬のあの最後の優勝の瞬間、玉の海を寄り切ったときの「ほっとしたような顔」を今も覚えている。憎らしいほど強かったあの人が、あんな顔をするとは思わなかった。大鵬はあのとき、これが自分の最後の優勝になるとわかっていたのだろう。だからこの話を読んだときは、みょうにそのことに納得したものだった。
 
 さてこの話、ソースはどこだったろう。たぶん『週刊ポスト』がしつこく「大相撲八百長問題告発」というのをやっていた時代に読んだのだと思う。舞台になったのは1971年。私が読んだのは1990年ぐらいか。でもこの場合、ソースにはこだわらない。書きたいのは私の気持ちである。

 こどものときからの相撲ファンであった私は、この「かつて感動したあの大一番」が、じつは仕組まれたものだと知ってどう思ったか。夢を汚されたと怒ったか。大相撲に失望したか。それとも「こんなのウソに決まってる!」と怒ったか。
 
 私は「いい話だなあ」と感激をあらたにしたのである。「相撲を好きでよかった」「さすがはおれの好きな大相撲だ」とすら思った。
 
 所詮週刊誌記事である。信憑性はどうなのだろう。一笑に付すひともいるかも知れない。私は素直にすべて真実だと思った。いまもそう思っている。
 これは、大鵬自身が星を譲れと使者を使わした両者納得のものなのか、あるいは大鵬は知らず周囲がおぜん立てした、玉の海だけが知っている、いわゆる片八百長なのか、そのへんのこともある。

 でもそんなことはどうでもいい。自分がリアルタイムで見た、優勝した瞬間の、大鵬のあのほっとした顔に、見知らぬ「風呂場での玉の海の号泣」が重なり、私の思い出はより鮮明になり厚味を増したのだった。(続く)
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  1. 2013/02/07(木) 16:00:17|
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