相撲話──大鵬の思い出②──柏戸贔屓の母と姉の影響──佐田の山と豊山

 長じるに従い、男である私は、自然に母や姉の感覚とは離れて行く。「長じる」と言っても小学生の時の話だ。物心ついたときに母親と姉の感化を受け、小学生低学年の時代に、そこからは卒業した。

 決定的だったのはふたりの「弱気を装う自己防衛論」だった。「すっぱい葡萄」路線である。
 ふたりは柏鵬の対決の時、「柏戸は負ける」と言うのである。「負けるよ、適わないよ、しかたないよ、しょうがないよ」と言う。仕切のあいだそれを繰り返す。しつこいほどに。

 これをやっておけば負けたとき傷つかない。「ほうら負けた。わかってたんだよ、やっぱりね」となる。そうして自分を護るのだ。「わたしたちは負けることを知っていた。予想通りの結果だ。だから落胆していない。傷ついていない」と。
 そうしておけば負けても傷つかず、勝ったときは喜びが倍になる。それは柏鵬に限らず贔屓力士に対して常用する彼女たちなりの応援姿勢だった。そういう母親であり、姉は母のクローンだった。そこで育っているから、私もそうなるはずだった。
 
 しかしまあ時が過ぎた今、同情して言うなら、アンチ大鵬はそんな方法でも執らないと正常ではいられないほど、そのころの大鵬は強かった。自分を護る方法として、そんなことを考えだしたのもむべなるかなとも思う。
 そんな家庭で育ったから、私は「巨人、大鵬、卵焼」の感覚を知らない。熱狂しなかったから。でもそれは振返ってみれば、今に続く相撲ファンの姿勢として、とてもいいことだった。単純に熱狂するよりもずっと。だって「強さ」を感情的ではなく冷静に判断できるから。


yutakayama 母や姉のインチキ判官贔屓と比して、父は本物の判官贔屓だった。といって、もちろん強い力士が好きなのだけど。
 
 この時代、東京農業大学を出た学生横綱である豊山が「初の学士力士」として幕下付出しでデビューした。十両で全勝優勝を遂げる。話題沸騰だった。
 ちなみに十両で全勝優勝した力士は、今に至るも栃光、豊山、北の富士、把瑠都の4人しかいない。

 豊山は色白の美男子だった。母と姉は大ファンになった。ハンサムで大学卒というのが理由らしい(笑)。
 母も姉も基本的に女でありミーハーなのだから、本来美男で強い大鵬が好きでなければおかしいのである。しかし大鵬は、すごすぎて、気弱な私の母と姉は、ファンになりそこねてしまった、というのが真相であろう。美男だったけど、それはハーフのような彫りの深い日本人離れした美男であり、近寄りがたかった。この時点で大鵬の血筋は判っていない。
 その点豊山は、すんなりファンになれる日本人的美男の力士だった。


 父は学士力士を嫌った。大学なんぞを出てるのより中卒の叩上げを好んだ。父は師範学校を出ていたから、当時の高卒の代用教員が多い田舎ではエリートであり、三十代で小学校長になっている。でも叩上げが好きだった。これは生涯変らなかった。学士力士を嫌った。

 父の好んだのは佐田の山だった。まあこちらも後々横綱になる出羽の海部屋の秀才力士ではあるのだけど、豊山と比べれば中卒の叩上げになる。
 佐田の山は話題の豊山について聞かれると、「大学を出てきたような相撲とりに負けたくない」とハッキリ言った。ふたりは同時期のライバルだった。柏鵬のすこし後になる。後に理事長と理事として協力し合ったりする。

 自分達の応援している大卒で美男の豊山のことを、中卒で不細工な佐田の山がそう言ったものだから、母と姉は佐田の山が大嫌いになる。佐田の山の名前は「晋松」である。その名前も品がなく貧乏くさく百姓っぽい名前だと貶した(笑)。父はいい名前だと言った。

 よって我家には母と姉の応援する豊山派と父の応援する佐田の山派の対立が勃発したのである。佐田の山派は父一人だろうって? いえいえ、そのころにはもう母と姉の「弱気を装っての自己防衛論」に愛想を尽かしていた私は、迷うことなく父の感覚を支持するようになっていた。大卒よりも中学を出てすぐ相撲界に飛びこむ少年のほうがかっこいい。「晋松」も男くさくていい名前だ。のっぺりした豊山的美男子より、佐田の山の根性のあるふてぶてしい顔のほうがかっこよく思えた。
 
 まだ小学生だったが、この時点で私は、母と姉という女世界から飛びだし、父との男世界に参入したのである。母と姉からすると自分達の連合軍から裏切者が出た感じだったろう(笑)。その後も私は母と姉とは悉く感覚が対立するようになってゆく。反面教師だった。(続く)
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  1. 2013/02/01(金) 05:00:51|
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