王将戦第二局──コピーライター原田八段の思い出──久保利明・さばきのアーティストに流れる淡路不倒流の血

ousho2
今日は王将戦第二局二日目。久保利明王将対佐藤康光九段。先日の第一局がおもしろかった。今日のも凄い展開になっている。挑戦者丸山が弱くてつまらなかった竜王戦とはちがって充実している。



久保の愛称〝さばきのアーティスト〟が普及してきたとき、原田八段のことを思い出した。将棋界の名コピーライターである。死後、贈九段だが、なじみのある八段で書く。

中原自然流、内藤自在流、大内怒涛流、有吉火の玉流。原田八段の名づけたこれらに親しんで育った。注目される新人が出て来ると、原田さんがなんと名づけるか注目した。これらは成功品。

ぜんぶが成功しているのではない。特に米長さわやか流なんてのは的外れだった。あのひとはさわやかではない。後に自ら泥沼流を使いだすが、こちらのほうがあっている。

晩年のものでは森内優駿流なんてのもひどい。森内は母方の祖父が京須八段だ。将棋界には珍しい名血だと言いたいのだろうが、もうひとつピンとこない。



形に囚われず斬りこんで行く谷川の終盤を〝光速の寄せ〟とし、普及していった谷川光速流は、谷川の輝く才能を表した最高にかっこいいコピーだが名づけ親は原田さんではない。それは元『将棋世界』編集長の大崎善生さんも書いている。多用して広めたのは編集者だった大崎さんだが最初に使ったのはちがうひとだ。誰もが納得し絶讃した最高の愛称である。とにかく原田さんは無関係。

いまWikipediaを見たら原田さんの項目で、谷川光速流と名づけたと書いてあった。ほんとWikipediaはまちがいが多い。このへんはかなり初歩の知識なのだが。

光速流という表現のかっこよさには棋士もみな憧れたようだ。森内は一時その堅実な棋風から「鉄板流」と呼ばれた。光速流のかっこよさと比して「泣きたくなった」と述懐している。たしかにね「鉄板流」と言われてもうれしくない(笑)。
原田さんの名づけた優駿流も、どなたかが名づけた鉄板流も、けっきょくは使われず消えて行く。名づけたからといってファンに浸透し支持されるわけでもない。




羽生にはそれがない。ないことがよくわかる。凄すぎて、そんな「なんとか流」なんて範疇を超えているのだ。
私も、将棋界で驚いたのは谷川の出現までであり、羽生になるともう凄すぎてわからない。万能すぎて色がない。「なんとか流」とは色をつけることであり、色を超越している羽生をそんな旧態のくくりで縛るのは不可能だ。



〝さばきのアーティスト〟は、軽やかな独自のさばきを見せる久保の振り飛車を見事に表現したコピーだ。それまでの「なんとか流」でないところもあたらしい。

ところがこの〝さばきのアーティスト〟は、局面が不利になると、そこからすさまじいまでの粘りを発揮する。軽やかなさばきとはあまりに違うその落差は話題になった。さんま風に言うなら「竹を割ったような性格なんやけど、中に餅が入ってた」になる。
表の顔は爽やかな〝さばきのアーティスト〟だったが、裏の顔は師匠淡路から引き継いだ〝不倒流〟だったのである。淡路はもう粘って粘って粘りぬいて勝つ。「長手数の美学」なんてわけのわからん賛辞もあった。将棋の平均手数が120手ぐらいのころ、決着まで200手を越すのはざらだった。決め手がないとしか思えなかった。私はもちろん短手数の「光速」を支持した。谷川はその平均120から140手の時代に50手とか、とんでもない斬新なことを始めたのだった。あの衝撃は忘れがたい。

谷川のやったのはプロレスで言うならハイスパートレスリングである。それまでは「60分フルタイム」が美とされていた。序破急がみな含まれた様式美である。谷川光速流とは、いきなり大技が炸裂し動きっぱなしで、10分以内に決着のつくハイスパートレスリングだった。このおもしろさを知ったら様式美プロレスはやたらのっさりもっそりしているように見えてしまう。その旧態然ののっそりもっそりの代表が淡路不倒流だった。



久保の表の顔の〝さばきのアーティスト〟は谷川光速流の系譜だ。不可能と思われるところから強引とも思える過激な局面打開を試み、それを繋いで手にしてしまう。だから〝さばきのアーティスト〟。伸び盛りの若手棋士もそう呼ぶ。アーティストというところにプロ棋士からの賞讃が感じられる。だがしくじって追い詰められると、もうひとつの淡路不倒流が顔を出す。

一般に将棋界の師匠と弟子は名前だけの場合が多い。師匠を決めないと奨励会に入れない。だから師匠を決める。名前だけの関係も多い。あまり将棋を教えてもらうことはない。入門の時に儀礼として教えてもらい、あとは数局程度、公式戦で何度か対局し、とかそんなものだ。

久保は淡路の将棋教室に通い幼い頃から手取り足取り教えてもらっている。なんと幼児の時に19枚落ちから教えてもらっているという。上手は王様だけの形だ。その後も六枚落ち、大駒落ち、何百局も教えてもらったと語っていた。こんな師匠と弟子はまずいない。苦しくなったとき、〝さばきのアーティスト〟をかなぐり捨てた久保が「淡路不倒流」に変身するのは擦りこまれた血の重みなのだろう。これぞ師弟の絆である。師の粘りが弟子のピンチに役立っている。



淡路不倒流は原田さんの命名だ。〝さばきのアーティスト〟というコピーは原田さんの感覚とは程遠く、もし御存命であったとしても原田さんには命名できないセンスだったろう。だがその中にも原田さんの名づけた〝不倒流〟の血は脈々と息づいている。生きている。
原田さんのコピー作品として、マイナーだけれど、淡路不倒流と森安達磨流は、棋風を適確に表した名品だ。


============================================


oudshou3


午後7時16分、124手までで佐藤の勝ち。二連勝。すごい将棋だった。佐藤のすさまじい読みが炸裂していた。二枚龍に追われ、駒損で、見た目には久保有利なのだが、しっかりと佐藤は敵玉までの距離感を計り抜いていた。しかし80手から100手まで久保が追い詰めている。ひっくり返されたのはそのあとだ。最後は追い詰めだが即詰みである。久保は指運がなかったが、諦めず応じた佐藤のつよさか。前局に続いての名局である。すばらしい。ふたりの熱戦で王将戦は盛り上がりを見せている。
いい将棋を見ると一日が豊かになる。第三局目が楽しみだ。

---------------

【附記】──〝玉損の攻め〟──原田泰夫 

将棋連盟会長を務め、名コピーライターとして将棋の普及にも大きな功績のあった原田八段ご自身のコピーは〝玉損の攻め〟だった。これまたどなたが最初に名づけたのか、なんともかっこいいコピーだ。
将棋は王様(玉)を取りあうゲームである。玉を取られたら終りだ。〝玉損の攻め〟とは、「健康は命よりも大事」的な成立しない比喩になる。それがまたなんとも原田さんの激しい攻め将棋を顕していて、じつにいいキャッチコピーになっている。

私が将棋に夢中になったときはもう原田さんは好々爺とした解説が売り物になっていた。私は激しい攻め将棋の〝玉損の攻め〟を知らない。棋譜で知るのみだ。

原田さんの解説でいちばん印象に残っているのは、香頭の玉を否定していたことだ。将棋の筋として常に強調していた。その解説を聞いて育ったから、それを根底から否定した〝米長玉〟にはおどろいた。私は米長玉のとんでもない発想だけで米長邦夫を認める。むかし先崎にインタビュウする仕事があったときも、真っ先に訊いたのは彼が米長玉をどう評価しているかだった。
関連記事
  1. 2012/01/27(金) 13:34:27|
  2. 将棋
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<朝まで生テレビの橋下対アンチ──仕切る田原のあみだくじ | ホーム | 娘のおしゃれ心──チェンマイのセーター>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://moneslife.blog.fc2.com/tb.php/628-35d3309e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

fc2moneslife

Author:fc2moneslife
2001年に始めたサイトMone's World--http://monetimes.
web.fc2.com/の出張版ブログ【木屑鈔】Boku-setsu-shouです。
2005年からやっていたライブドアブログから引っ越してきました。
FC2のサイトは2007年から利用させてもらっていました。これでやっとサイトもブログもFC2で統一です。
メールは、moneslife2000
@kpe.biglobe.ne.jpまで。

最新記事

カテゴリ

未分類 (0)
大相撲 (32)
落語 (6)
生活 (85)
パソコン (78)
ことば (41)
読書 (29)
音楽 (50)
政治 (200)
テレビ (27)
インターネット (91)
漢字 (6)
オリンピック (11)
マスコミ (46)
NHK (2)
プロレス (6)
世相 (91)
総理大臣 (7)
映画 (21)
スポーツ (8)
園芸 (3)
将棋 (71)
Jazz (7)
競馬 (20)
芸能 (32)
旅行 (10)
格闘技 (4)
漫画 (14)
橋下徹 (16)
タバコ (4)
Rock (2)
中共 (11)
宗教 (9)
週刊誌 (7)
皇室 (9)
地震 (39)
台湾 (5)
石原慎太郎 (10)
CM (2)
きっこ (23)
地デジ (7)
朝鮮 (23)
国民栄誉賞 (2)
ツイッター (8)
女子サッカー (1)
野田聖子 (9)
訃報 (10)
ブログ (11)
飲食 (11)
電王戦 (2)
竹島 (9)
靖國神社 (6)
デヴィ夫人 (6)
酒 (4)
節電 (1)
ホッピー (5)
小沢一郎 (9)
Windows8 (2)
たかじん (5)
島耕作 (1)
物品 (3)
テレサ・テン (2)
選挙 (8)
佐川急便 (8)
猫 (1)
白川道 (1)
サヨク (14)
麻雀 (1)
郵便 (1)
通販 (1)
Asus Memopad (1)
文章 (2)
携帯電話 (1)

月別アーカイブ

カテゴリ別記事一覧

検索フォーム

リンク

このブログをリンクに追加する