雨の日のNHK杯戦──石田和雄奮闘す!

Shogi.gif  きょうのNHK杯戦に石田和雄九段が出ていた。独特のユーモア口調で解説も人気のあった元A級八段である。テレビ出演はひさしぶりだ。予選を三連勝で本戦出場とか。


 地味な矢倉戦であり、仕事の資料整理をしつつ片手間に見ていたが、石田さんの奮闘に、いつしか釘付けになっていた。


 


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 石田さん、六十一歳とか。早いなあ。初めて知ったころは三十になるかならないかだった。
 名古屋出身。師匠は板谷四郎八段(贈九段)、兄弟子に板谷進八段(贈九段)がいる。親子で八段になったのは板谷さん親子が史上初だった。

 頭脳ゲームのガチンコ勝負である将棋は世襲は不可能。棋士の息子であるから物心つく頃から英才教育を受ける。周囲には全国から選りすぐられた天才の弟子達が揃っている。それでもままならない。板谷親子がいかに特別だったことか。
 板谷進八段が四十七歳で早世してもう二十年になる。早いなあ、つい昨日のようだ。お元気だったら、まだ六十七歳か。



 石田八段というひとは独特の人柄で笑わせてくれた。いわゆる天然である。意図してしかけているのではない。自然にやっていることが笑えるのだ。私が「名古屋のひとってのはおもしろいなあ」と思ったのは石田さんが初めてかもしれない。

 喜劇人には南利明のように名古屋弁(彼の生まれは神奈川)を売りにしたひともいたが、これは意図見え見えのネタ。石田さんのユニークさに、見知らぬ名古屋に興味をいだいたものだった。岡崎市の出身である。



 きょうの相手は若手。だれだっけ、だれでもいいや。見ていたのは六十一になった石田和雄だけだ。
 石田さんが攻めた。一気に攻め潰して圧勝かと思われた。
 だが息切れし、反撃を許す。いつのまにか完敗の形になっていた。
 これが年寄りの将棋。いまの自分を見ているようでつらかった。


 いまの私は将棋道場に行かないし、相手は最強ソフトの『激指』だけである。これを相手に石田さんと同じようなことをやっている。いわゆる「切れ筋」だ。攻めるだけ攻めて息切れし、なにも出来なくなり、へたりこんだところをめった打ちにされて負ける。



 二十代、三十代の頃、五十代の棋士が弱くなってしまうことが不思議でならなかった。現実世界では、やっと社長の椅子が与えられるように、今までの経験と積み重ねた知識が熟成し、その歳になって棋士は完成されるものと思っていた。

 そうじゃなかった。頭脳ゲームであり、体力勝負でもある将棋は、若いときの方が強いのだった。羽生が七冠を達成したのも二十代半ばであり、当事すでに彼は「体力のある今でなければ出来ない記録だから、ぜひ達成したかった」と語っていた。今はもう「棋士最強の時期は二十代」と結論が出ている。スポーツ選手と同じなのだ。
 相変わらず羽生や佐藤世代の天下だけれど、それは彼等の能力が秀でているからであり、最強の時期は二十代半ばだろう。
 


 息切れして負ける石田さんを見ているのはつらかった。
 私は現実世界の対戦将棋では石田さんのような体験をしていない。若い方の強い場面ばかりを経験してきた。
 勝ったり負けたりしたのは将棋道場だけだった。学生時代、六級から始めて三段になり、一区切りついたので行かなくなる。


 それから十年以上の間があり、海外旅行に凝る。誰とやっても負けなかった。負けない自分に自分でおどろいた。
 それは私が強いのではなく、将棋というゲームの逆三角形の裾野を構成しているひとのほとんどは初段以下であり、私程度の力でも圧倒的なのである。

 チェンマイの『サクラ』で百人前後のひとと指し、私は三年間一度も負けなかった。毎日十局以上指した。年に四ヶ月はチェンマイにいたころだから、いったい何千局指したことだろう。ルー・テーズの連勝記録よりは確実に上である。


 みな無筋だったので簡単に勝てた。いわゆる自己流の力将棋である。
 ビールを飲みながら相手をしていて気楽だったのは、きょうの石田さんのように、いまの私のように、みなせっせと攻撃してきては、かってに息切れして倒れてゆくのだった。私は酒を飲みつつ、彼らの攻めをただ受けているだけでよかった。



 将棋の基本は算数である。1で護っているところを破るには2の攻撃力がいる。それすらわからないひとがいる。これに勝つのは簡単だ。それぐらいは知っていて、1を破ろうと相手が2の攻撃力でやってきたら、こちらも守備力を2にすればいい。それでもう破れない。3にしてきたら3にすればいい。

 そうやって受けていると、みな辛抱たまらんと、3と3で破れないのに攻め始めてしまう。それを追い返せば、あとは豊富な手駒で、息切れした相手を一気に詰ますだけだった。



 時が流れ、いまそれをコンピュータにやられる立場になってしまった。なさけない。これは人間相手でも変らないだろう。いまの私の将棋は無理を承知で攻めずにはいられない息切れ将棋である。

 自分が弱い立場になって、あのころの「辛抱たまらん」ひとたちの気持ちがわかるようになった。守備力と攻撃力、3対3だから破れない。理屈で解っていても、なんとかなるんじゃないかと行ってしまう(笑)。これが年寄りの短気。我慢できない愚。いつしか私も『サクラ』で負かしていたひとたちと同じ年齢になっている。



 これらのことを思うと、いかに大山が鉄人だったかが解る。七十で死ぬまでA級を守った。六十三歳で名人戦挑戦者、六十六歳で棋王戦挑戦者になっている。その年齢で最強の二十代棋士と互角に渡り合っていた。
 そのすさまじいまでの強さは、中原、米長、加藤と、みな五十代でA級陥落しているのと比較すれば歴然だ。
 羽生は大山の獲得タイトル数を抜いて歴代一位となるだろうが、この記録だけはどうだろう。
 大山の凄さは精神力だ。あの精神力はあの時代のひとだけのものではないのか。あの強靱な精神力が羽生や佐藤にあるとは思えない。



 昨年、『激指』のレーティング戦をいいかげんにやっていたら凡ミスが連続して三級クラスにもほいほい負けた。酒を飲みつつだから、下手な縁台将棋そのままに、飛車の素抜きをやられたり、三手詰めを見逃したりと、ヘボもいいところである。


 それを繰り返していたある日、突如くやしくなり、それこそテレビに向かって正座する姿勢で本気になった。たまに私にはこんな日が訪れる。
 それから一ヶ月、真剣に勝ち進み、なんとかレーティングで2200点まで行き四段になった。本気で必死で考えればまだそれぐらいの力はあるらしい。


 だが真剣に考えることがものすごくつらかった。こんなにつらいなら弱くてもいいやと思った。今はまた初段あたりと勝ったり負けたりしている。
 ただ80点しか出せなくなっていたボーリングを気が狂ったようにやって、また学生時代と同じ200UPまでもっていったように、ささやかながらの自信にはなった。でもしんどいからもういい。



 そういうことなのだろう。歳を取るとはそういうことなのだ。
「あのひとも歳を取って丸くなった」
「若いときは突っ張ってたのにねえ」
 丸くなるというのは生き物としての成長のように言われる。私もそう思い、丸くなる日を楽しみにしていた。そうして待望のその日がきた。今の私はとても丸い(笑)。だが感想は、思っていたものとはだいぶ違っていた。


 要するに面倒なのだ。若者が突っかかってくる。あちらがわるい。なのにこちらから「はいはい、ごめんなさいね」とあやまる。丸く収める。果たしてこれは人間的成長なのか。
 面倒なだけだ。バカと係わりたくないという。なにもかもが面倒でどうでもいいのだ。真に正しいひととは、こんなことをせず、若者の非礼を質せるひとだ。私は典型的めんどくさがりオヤジになってしまった。あちらがわるくてもこちらからあやまるけど、目の前でその若者が死んでも、ゴキブリが死んだほどにも感じない。こういう闇も芽生えてくる。


 とはいえダービーの日も、6Fでソファに新聞を置き、席取りをしていたアンチャンの新聞を払いのけてすわり、そこにやってきたアンチャンと胸ぐらをつかんでやりあうという事件を起こしております。けっこう血気盛ん(笑)。



 いま旅先で将棋を指したら、私はかつての私のような三十代の将棋好きに、いいところなくこてんぱんにやられるのだろうか。それともその場になったらピキっとスイッチが入り、真剣に考え、かつての力で対抗するのだろうか。真剣にさえなれば、いまでも私を簡単に負かせるほど強いひとは、そうそう旅人にはいない。

 しかしそれ以前に、今の私は、異国の旅社で「あの、将棋、指せます?」と誘われたら、「すみません、できないんです」と応えそうだ。今更見知らぬ人間と将棋なんか指したくない。問題はそっちか。


 

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  1. 2008/06/22(日) 13:37:07|
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