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飲食話──なすのわさび漬けの素──異国で涙したわさびの味──庶民派屋台好き『島耕作』のウソ--ネットレシピは誤字だらけ

wasabi motoスーパーで写真の「なすのわさび漬けの素」を見かけた。なつかしくて思わず3袋も買ってしまった。値段は税抜きで93円だった。以前買ったときは130円ぐらいしたと思うのだが勘違いか。
 異国に長逗留するとき、ふと思いたってこの種のものを手当たり次第に買って持参することはおおい。こだわりのモノを持参することは以前からやっていた。
 たとえばタイに燃えていたころ(笑)、塩味歯磨きを持っていった。あのころのタイの歯磨きはハッカ系のものばかりで、サバイサバイを至上とする民族なので、スースー度合もすごかった。しかし日本人の私にはあわない。私は日本にいるときからスースー系はきらいだった。同じくスースー大好きの彼らにも塩味歯磨きは無意味なモノだったのだろう。タイ製はもちろんないし、大きなスーパーに行っても日本からの輸入品もなかった。どこを探しても見つからず持参することになった。いまはもちろんある。思うに、こういうのって「スースーがかっこいい」から「ふつうがいい」にもどるようなもので、成長なのではないか。自分に当てはめるなら、こどもの私はスースー度合が強いものほどいいハミガキだと思っていたかも知れない。塩味のハミガキなんて認めなかったろう。
 「森永ハイソフト」というキャラメルが必需品の時期もあった。日本にいるとき口にすることはほとんどないのだが、異国でさびしくなったとき、あの味が私には疲れを取る最良の甘さだった。どこに行くにもバッグにひとつ入れていった。しかしキャラメル一個をあの銀紙で包む感覚は外国にはないらしく、アイルランドの空港では手荷物検査で引っ掛かり、実際しゃぶって見せて飴だと確認するまで爆弾犯かと怪しまれた。とまあいろいろあるのだが、さすがに漬け物の素を買ってもっていったことはなかった。



 だいぶまえの話だが。
 世界を巡ることがたのしくてしょうがない時期の三十代の競馬ライターが、一緒に旅行することの多い先輩の五十代のライターを否定していた。そのひとと異国に行くと、まず最初に日本料理店はないかと言うのだとか。せっかく異国に行ったのに日本食ばかり食べている。異国に来たならその地の料理を食うのが基本であり、「あのひとは若いときから多くの国を旅したひとなのに、なんであんな……」というのが彼の不満だった。
 しかしそれは「若いときから多くの国を旅したひとだからこそ」なのである。その先輩ライターは、それこそあのシベリア鉄道でヨーロッパに渡った世代だ。当時は日本食など食いたくてもなかったろう。それはそのあとに巡った数十ヵ国でも同じだった。その地その地の飯を食うしかなかった。不満はあったにせよ、この三十代のライターと同じく、それがたのしい時期もあったろう。
 そうして五十代も後半に入ると、素朴な本音が出て来る。日本人なのだ、日本食が好きなのだ。もうそういう苦労からは卒業して日本食の好きな日本人として素直に生きたい。今は主だった国の都市には日本食レストランがある。そこで日本食を食いたい。そういうものである。それがまだ異国巡りと異国の味が新鮮でたのしくてたまらない三十代の彼にはわからない。私にも三十代の彼と同じ時期、同じ意見の時があり、そしていま見事にその先輩ライターと同じ感覚になった。
 あの三十代のライターもいまはもう五十代だ。ここのところ音信不通だが、いまはどんな食生活で異国を巡っているのだろう。



『島耕作』の初期の頃、異国に赴任した彼が、その国の庶民の食べる屋台で食事し、現地人の社員に「こんなひとはいなかった」と一目おかれるシーンがよくあった。その後もその路線は続いた。気どっている日本人はみなクーラーの利いている日本食や洋食のレストランに行くのに、島耕作は、現地人と一緒に庶民的な屋台で汗を掻きつつ食事する。現地人スタッフから、あなたは変人だ、でもいいひとだ、と思われる設定である。現地人の美人秘書に、それが理由で好かれたりする。わたしたちと同じ目線のひとと。
 それが弘兼さんの姿勢であり、「その国の庶民のものを喰わなければその国はわからない」という主張なのだろう。フィリピンでもタイでもベトナムでもやっていた。定番であり、悪く言えばワンパターンとなる。中国でも同じだ。それは現地採用の連中に好感を持って受けいれられている。

 しかしこれはウソだ。こういうところに「取材して描くマンガ」の嘘っぽさが出る。弘兼さんの異国取材は長くても一週間だ。そりゃ初めて行った国で、庶民が食事する屋台取材は基本であり、「うん、こりゃうまい、気に入った」が出来るだろう。一、二回は。一週間だけだし。
 だがサラリーマンは数年間も勤務する。フィリピン、ベトナム、中国の、現地の連中があわただしく食事する下々の者の屋台で、毎日『島耕作』のようにスーツにネクタイ姿の日本人サラリーマンが食事など出来るはずがない。一週間で厭きて、つらくなり、日本食が食いたい、クーラーのあるところで飯が食いたい、となるだろう。あくまでもあれは「弘兼さんの一週間取材」であるからこそ出来るエエカッコシーである。現地赴任のサラリーマンからは、そういう『島耕作』のキレイゴトには批判もあったと思う。

 タイ篇のバンコクではトゥクトゥクに乗り、「わーお、こりゃベンツよりいい」なんてやるシーンがあった。もちろんそこでもタイ人の運転手ソムチャイに、「旦那はかわったひとだ」と好意的な評価を受けている。弘兼演出の「島耕作はいいひと」である。初めて乗って、一回限りだからそんなことが言える。あの地獄渋滞都市バンコクで、毎日トゥクトゥクに乗っていれば、暑さにバテ、排気ガスに煤けて、クーラーの利いた乗用車が恋しくなる。私がそうだった。「庶民なのだから庶民用のトゥクトゥクに乗るべし」なんて、100回ぐらいまではトゥクトゥクだったが、やがてエアコン附きのタクシーにばかり乗るようになった。地獄の渋滞もジャスミンの生花のいい匂いがする涼しい車内なら耐えられる。タイのタクシトードライバーはバックミラーのところに白いジャスミンの生花をぶらさげている。それが室内香料だ。これは信号待ちの時、少女が売りに来る。匂いの記憶は強烈だ。ジャスミンのことを思っただけであのタクシーの中の冷気まで感じることが出来る。

 私はサラリーマンじゃないから、気楽な恰好で、『島耕作』と同じ考えで庶民屋台で食事をする旅をしてきたが、美味しいタイやベトナム料理だって、毎日そればかりだと厭きてくる。たまにはちがうものを喰いたくなる。カンボジアはまずかったし、中国はもうあのうるさくて礼儀がなく食いちらかすシナ人と一緒に飯を食うだけで憂鬱になる。食はたのしみなのに、食が憂鬱になるのだ。庶民が朝飯、昼飯を慌ただしく食う店では、どんぶりにポリ袋をかけ、その中に飯や麺を挿れて出す。これなら食いのこしは袋ごと捨てればどんぶりを洗う手間が省ける。しかしこれはかなり不快で、日本人の感覚としては受けいれがたい。味以前の問題だ。シナはそんなところである。相変わらず島耕作がそんな場所に行き、「うん、これからは朝飯はここにしよう」なんて言ってシナ人秘書に「そう言うと思ってました」なんて気に入られるところにはうんざりした。私はそういうシナ人の食堂に行きたくなくて、部屋でコーラとビスケットで過ごしたことすらあった。そのほうがまだヤツらの食堂に行くより精神的にましだった。なにが「食は中国にあり」だ。食以前に人間の問題のほうが大きい。
 『島耕作』はフィリピンやベトナムや中国の屋台に何度行ったのか。「よし、これからは朝食はここにしよう」なんて言ってるが、ほんとにそれからも毎日そこに通ったのか。訊いてみたいものだ。

 全巻所有している大好きな『島耕作』だが、あちこちに矛盾点を含んでいる。でもそれはそれでおたのしみと割り切ることにしているから、私のいちばん嫌いな『島耕作』は、この「異国でやたら庶民派をアピール」かもしれない。



wasabi moto 日本食に餓えたときのために「きゅうり 浅漬けの素」とか、同様のものを何種類か持っていった。その中で私がいちばん感激したのがこの「なすのわさび漬けの素」だった。期待していなかった。ほったらかしておいた。なすの漬け物なんて日本でも作ったことがない。漬け物は、大根、蕪、白菜、高菜、野沢菜、なす、きゅうり、みな好きで、日本酒を飲むときには、メインの肴は刺身だが、漬け物も缺かせない。といって異国で餓えるほどでもなかった。

 餘談だが、私はいま朝鮮漬けを喰わない。日本のおいしい漬け物があるのに、なにゆえに朝鮮漬けを喰わねばならないのか。むかしは「朝鮮漬け」と言った。いつしか「朝鮮」というコトバが禁句となり、いまは「キムチ」と言うらしい。日本の最高にうまい漬け物に「糠漬け」がある。それを食わず朝鮮漬けを好むようなのは、味覚が壊れている。食品は風土にあって育つ。朝鮮漬けは日本よりも寒い朝鮮半島で喰ってこそうまいものだろう。閑話休題、言帰正伝。

 旅行バッグの中からこれを見つけた。やってみるかと手にする。なすはあった。日本と同じ感じのものが。それを庖丁ならぬカッターで切り、ビニール袋にいれて、この素と揉み、冷蔵庫に保管した。たいした期待はしていなかった。1時間で喰えるようになるらしいが、一昼夜ほっておいた。これは正解だった。一昼夜漬けは1時間よりもあきらかにうまかった。これは後日確認した。
 翌日「あ、忘れていた」と取りだし、口にしたとき、茄子の漬物のわさびの味から日本を想い、泣きそうになった。そしてまた、猛烈に日本酒が飲みたくなって困った。とても日本酒が手に入るような環境ではない。諦めざるを得なかったが、あれで日本酒を飲んだら確実に泣いていた。



 こういう「素」に関して素朴な疑問がある。旬となってきゅうりが安くなり、3本が98円なのに「きゅうり 浅漬けの素」が128円だったりする。私の感覚だと、きゅうり本体が3本98円なら、浅漬けの素は30円ぐらいが適切だ。「素」のほうが高いことに納得が行かない。本末転倒だろう。
 その点この「なすのわさび漬けの素」は、まだ茄子がシーズン前なので高く、今回私の買ったのは博多茄子で3本268円、この3本を漬ける「素」が93円だから、私流のリクツにあっている。


「素」の中身にも「なぜそんな値段なのかわからない」と感じる。簡単な調味料の組合せにすぎない。どう考えても30円で充分だ。つまりこれは「浅漬けすら作れないヤツのためのもの──高くて当然」ということなのだろう。それすら出来ないヤツのための便利グッズだから、そういう値段なのである。ターゲットとする「ヤツ」は料理の出来ない主婦か。

 一般にはどうなのかと検索してみた。「素」を使わずにおいしい漬け物を作っているひとがいるはずだ。ネットには「なすのわさび漬け」のレシピがいっぱいあった。チューブわさびを使って、すこしその他の調味料を足せば作れるようだ。「チューブわさび」は私には必需品で異国に行くとき必ず持参する。うまい刺身が手に入ったとき、これがないと困るからだ。わさび抜きの刺身を喰う気はない。チューブわさびはまずい。しかしあるとないとでは段違いだ。ちかごろスーパーの寿司に「さび抜き」というのがあり、たまにまちがって買ってしまうことがある。そのときしみじみわさびの利いてない寿司など意味がないと感じる。というぐらいわさび好きで、外国に行くときは、その味に満足はしないが緊急用として常にチューブわさびをも持参するのだが、残念ながら今まで役だったことはない。ポルトガルでタコを喰う機会があったら役立つのだが、ここのところ私の異国行きはシナの山の中ばかりなので、わさびを使うような肴には出逢えなかった。いつも使わずに持ち帰っていた。帰国してそのままごみ箱行きである。だからこそ「なすのわさび漬け」のわさび風味に感激したのだ。そうか、チューブわさびを工夫すればいいのか。勉強になった。役立ちそうだ。まずは日本で作って試してみよう。



 ネットの料理レシピを見るなんてめったにない。便利なものだと感激した。しかし、ちょっとこれはと思うこともあった。あまりに誤字が多いのだ。それもほんの1、2行の短文の中に。

wasabi1

 

「茄子を5cm長さ切り」──「煮切り」という料理用語があるのかと思った。茄子を煮るのか!? 煮た茄子を漬けるのか? ただの「に」を漢字変換したミスだった。また「5cm長さに」は「5cmの長さに」と「の」を入れるべきだろう。

 しかしこんなミスが出るのはなぜなのだろう。20年前のIMEならともかく。すくなくともATOKはこんなミスはしない。









wasabi2













夏向きひと品──これも最初「名ひと品」というものがあるのかと思い、それからやっと「夏向きな」の「な」を不要な漢字変換しているのだと気づいた。おそらくMS-IMEだと思うが、しかしこれぐらい気づかないのだろうか。IMEもお粗末だが、これに気づかないひとの感覚が信じられない。



 他人様の揚げ足をとってもつまらないからもうやめるけど、これは数多くの中のほんの一例。多い。料理レシピにはほんとにこんなのが多い。あきれた。ネットにレシピをあげるひとってこんなにがさつなのか。ほんの1、2行の文章の中にこんな誤字を挿れるひとの料理がうまいのだろうか。信じがたい。読む気が失せた。
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