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イニシャルのこと──日本人のイニシャルは「姓・名」の順が正しい──「名・姓」にしていた時代の愚

 あるひとがブログで私のことを「知人のKY氏」と書いていたので、「私のイニシャルはYKですので直してください」と抗議した。ささいなことだが看過できなかった。そのひとは自分の持っている有限会社にも「JT」と自分のイニシャルである「名・姓」をつけているぐらいだから、よほどこの「名・姓というイニシャル」が好きなのだろう。

 日本人の名前は「姓・名」の順であるから、それを略したイニシャルも「姓・名」の順が正しい。しかし長らく欧米人を真似て、それをひっくり返し、「名・姓」で表記する習慣があった。
 これは明治維新のころの日本人が、「あちらではそうする。それがかっこいい」とミーハー感覚で真似たことから始まった。西洋人コンプレックスの最たるものになる。日本というすばらしい国は、明治からの「西洋人へのあこがれ」で国をおかしくした。



 明治維新で始まる明治をやたら礼讃するひとがいるが、夏目漱石すらも「すくなくとも明治中ごろまではどうしようもない軽薄な時代」と語っているように、あれはもう初めて触れた西洋文化に浮かれた、なんともどうしようもない、軽薄な、恥ずかしい時代である。姓・名の順である日本人の名を、名・姓の順で記して西洋人のようにふるまうという悪習もこのころに始まった。

 もっとも、そういうヤカラばかりではなく、榎本武揚はこの時期、外国での批准書類に「Enomotto Takeaki」と「姓・名」で署名している。(ttはミスではなく、ママ)



 日本人は劇的なことを経験するとすぐにそちらに染まる。むかしなら、仏教、儒教や漢字を知ったら、いきなりそれ崇拝になる。近代で言うなら明治維新と敗戦だろう。180度方向転換してあちら一色になる。
「姓・名」の順である日本人が、自分のイニシャルを「名・姓」と逆さにしたのは、開国を迫ったペリーや進駐軍のマッカーサーが強要したわけではない。先進を気どる日本人が、「外国ってかっこいい。おれもそうしよう」と猿真似しただけである。いわば黒髪を金髪に染めるバカと同じレベル。

 そうして時は流れ、やっと「日本人は日本人の黒髪がいい」と金髪から黒髪に戻るように、耳に空けた穴を恥じるように、イニシャルも「姓・名」の順に戻った。パスポートや外交書類でもそれが徹底された。



 それは21世紀の常識なのだが、私を「名・姓」で表した知人のように、まだ知らないひともいるらしい。条件反射で、アルファベットで自分の名を書くときは、「名・姓」にしてしまうのだ。

 過日、共産国へのヴィザ申請を専門会社に代行してもらった。以前は自分で麻布や六本木の大使館まで行ってやっていたが、西東京の外れに都落ちしてからは、電車賃と消費する時間を考えると、こちらのほうがむしろ安くあがる。また共産国の中には個人での申請を受けつけなくなった国もある。
 そのとき印象的なことがあった。代行会社のサイトから申請フォームをDownloadして記入するのだが、そのアルファベット名前記入欄の注意が異様にくどいのだ。

「姓名は姓・名の順で記入してください。パスポートと異なっていると申請が却下されます」までは解るが、その後に例まであげてある。
「山田太郎さんの姓は山田、名前が太郎です。姓がYAMADA 名前がTAROです。姓名の欄に正しく記入されていますか。逆にするとパスポートと異なるため、申請が却下されます」と、まるでこどもに教えるかのようである。この会社は、ビザ申請を代行して金を得ている。申しこんできた客の書類が記入ミスでは金にならない。真剣にもなる。これほどくどいというのは、それだけいまだに逆に書いてくるひとが多いのだ。



 いまの日本のパスポートのアルファベット表記は、「山田 太郎」は「YAMADA TARO」である。「アルファベット表記」というかアルファベットだけで漢字表記はない。だからこれがすべてになる。
 もしも姓名の表記順序を昔風に間違え、「TARO YAMADA」と書いても、、日本人なら、「山田太郎さんが太郎山田と順序を逆に書いた」と理解できる。山田が姓、太郎が名前という常識があるからだ。だが外国人から見たら「YAMADA TARO」と「TARO YAMADA」はまったくの別人である。この場合の注意書は外国への考慮以上に、コンピュータ処理の問題もあるだろう。コンピュータも外国人と同じく「山田太郎」と「太郎山田」は別人と判断してしまう。や行とた行はまったく異なる。

 ビザ申請フォームのくどい注意書きは、未だに自分の名をアルファベットで書けと言われると、「名・姓」にしてしまう日本人が多いからなのだろう。そしてきっと、これだけしつこく注意しても、間違えるひとはいるのだ。確実に。

 こういう慣習の変化は早い。若者は「姓・名」の順で書く。それがふつうになっている。これからのこどももそう覚えて行く。自分の名をアルファベット綴りで「名・姓」とひっくり返して書き、「おじいちゃんはどうしてそんなヘンなことをするの?」「おまえはそういうが、むかしはこうしたんじゃよ」となる時代は遠くない。

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【追記】──まともな時代がやってきた──2014/12/01

 今や外国語教育は小学校でも必修となった。家庭でも授業を終えた子供が、覚えたばかりの英語で話しかけてくるかも知れない。しかし、不用意に自分の常識で対応するとあいさつの段階で恥をかく。

Hello, my name is Ken Tanaka.〉は教科書に載っていた一番はじめに教わる英語のあいさつだ。

 このようにMy name isのあとに「名―姓」の順で習ったはずだ。しかしMy name is~のあいさつは「古い言い回し」として今の教科書では使われなくなった。
 
 現在中学一年生の教科書ではI am Tanaka Ken.と、 I amと「姓―名」の順で名乗るのが標準なのだ。

 姓名の順は2000年に国語審議会が「国際社会に対応する日本語の在り方」で、日本人の姓名についてローマ字表記を「姓―名」の順にすることが望ましいと答申したことが大きく反映されている。
SAPIO2014年12月号

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 時代は正しいほうに動いている。西洋人コンプレックスで、日本人が姓名を逆さに言う時代は終った。

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【追記】──「姓・名」と「名・姓」によるたびたびのトラブル──2014年7月3日

 ちょうど1年前に書いた上記の「日本人のイニシャルは姓・名の順が正しい」が息長く読んでもらっているらしい。ありがたい。感謝を込めて、その後の私の体験談を書く。


 ここに「日本人のイニシャルは姓名の順が正しい」を書いてから、私は何度か空港で「チケットの再発行」というのを経験した。理由はいつも同じ、「チケットとパスポートの名がちがっているから」である。それらはみなネットで購入したチケットだった。

 ネットでチケットを買う。クレジットカードで払う。ひき換えナンバーをメールでもらう。空港の航空会社カウンターに行き、パスポートとナンバーを提出し、チケットをもらい、チェックインしようとする。
 
 そこで問題が生じる。「すこしお待ちください」となる。スタッフが話しあっている。「チケットのお名前とパスポートのお名前がちがっておりますのでチケットを再発行いたします。あちらのサーヴィスカウンターでお待ちください」と言われる。そのことに費やされる時間は結果的に30分程度だが、私の前のひと、後ろのひとたちが続々とチェックインして行くのを尻目に、別口のサーヴィスカウンターとやらで待たされるのはあまり気分のいいものではない。旅慣れていないひとがミスしたようである。それはない。落ち度はあちらにある。旅慣れてもいる。そんなこともあろうかと早めに行っているので、なんとかそれ以上のトラブルには巻きこまれずに済んでいるが……。


 つまりこういうことだ。ネットでチケットを申しこみ、航空会社のサイトで申込用紙にあれこれ記入する。まずは最初にあるFirst Nameのスペースに名前を、その下段にあるFamily Nameのところに苗字を記入する。それはもう何度も何度も確認してやっているから決して逆に書いてはいない。それから生年月日、住所、電話番号を記入して行く。

 空港の航空会社カウンターに行く。そこにはすでに私のチケットが用意されている。そのチケットの名前は、ネットの用紙に記入した順序と同じく「名・姓」になっている。欧米人の場合はこれですんなり行く。パスポートも同じ「名・姓」だから。
 
 しかし私の提出した日本人パスポートの名前は、今の時代、「姓・名」の順である。なのにチケットにプリントアウトされた名はむかし風に「名・姓」の逆さ順である。異なっていては搭乗できない。急いでパスポートと同じく「姓・名」の順のチケットを再発行するからちょっと待っててくれ、となる。航空会社の怠慢である。自分のミスならともかくあちらの杜撰な体制のために30分待たされるのは愉快ではない。

 それだけまだ21世紀になってから徹底された「日本人の姓名は、姓・名の順」というのが諸外国の航空会社には浸透していないのだ。逆に言うと、「姓・名」の順の日本人なのに、欧米人の〝猿真似〟をして、「名・姓」にしていた時代の弊害がいまも残っている、ということになる。


「藤圭子&沢木耕太郎『流星ひとつ』考」に書いたが、1979年、後の『深夜特急』の旅を終えた沢木さんがパリから日本までもどってくるのに購入した格安チケットは、他人名義である。あのころはそれほどいいかげんだったのだ。

 これは、假りに正規品で10万円のチケットだとすると、払い戻し不可の品なので、乗れなくなったひとがその辺のアヤシイ業者に売ったものである。たぶん3万円ぐらいに根切られる。新品の10万がたったの3万だが、返品不可の品なので搭乗期日までに売らないとただの紙切れになってしまう。しかたなく売る。そこにとにかく安いチケットはないかと捜しまわっている沢木さんのようなひとが来る。6万円で売る。沢木さんのようなひとは、10万円のものが6万円で買えたとよろこび、こちらは3万円のものが6万円で売れたのだから大儲けである。金儲けのうまいひとは、こんなことをする。どこの国でも、いつの時代でもいる。

 搭乗するのは26歳の日本人男性の沢木さんなのに、チケットの名前は50歳の白人女性だったりする。それでも乗れてしまうのである。さすがに一年間の放浪をしてきて旅慣れている沢木さんも、「ほんとに他人名義の航空券で搭乗できるのだろうか」と心配しているから、当時としてもめちゃくちゃな話だったのだろう。航空会社は当時も今も悪名高いソ連のアエロフロートである(笑)。


 あれから幾星霜。ハイジャックやらテロやらいろいろあり、今ではパスポートとチケットの姓名が一致しているかどうか、じっくり見られる。1文字でもちがっていたらアウトである。爆発物で死にたくないから、厳しいことは歓迎する。いくらでもしつこくチェックしてくれと願う。時折「なんだよ、めんどくせえなあ」と怒っている日本人を見かけるが、飛行機なのだ。なんかあったら即、死なのである。船のように、沈みそうだから泳いで逃げるべえも出来ない。アヤシイものはしつこくチェックしてもらわないと困る。この辺も日本人は平和ボケだと感じる。

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 不便なのは、今はそういう警備の厳しさから機内への水ものが持ち込み不可になったことだ。飲料水もぜんぶ取りあげられる。ウイスキーの小瓶を持ちこんだりできない。私はウイスキー党じゃないが、深夜の飛行機でキュッとやって眠る寝酒にはやはりウイスキーがいちばんだ。パスポート審査を通った後、免税店で大瓶を買って持ちこむことは出来るが、次のトランジットで乗りかえるときに残りは取りあげられてしまう。ワンフライトでウイスキーの大瓶を空けるほどの大酒飲みではない。いやヨーロッパまでなら12時間かかるから空けられるが、私の場合は、うまいツマミがあってこそ、である。真っ暗な機内でツマミも氷もないウイスキーをストレートで一本空けたらアル中だ。
 免税店の連中も、私みたいなヤツのために(けっこういると思うよ)、そこそこのウイスキー小瓶とツマミと氷のセットでも用意したら、けっこう売れると思うのだが。


 長年けっこういい航空会社に乗ってきたので、ここのところ安いところに乗って(しか乗れない)、しみじみと惨めな思いをしている。いいところだと酒は飲み放題だ。「酒とおつまみのセットを売ってないか」などとバカなことを考えたこともなかった。といって繰り返すが、わたしゃ酒飲みだけど意地汚い酒依存症じゃない。体質的にすこし強いだけだ。でも今まで乗ってきた航空会社は、ビジネスクラスはもちろんエコノミー席でも、そんな私に充分満足するだけの、ビール、ワイン等を飲ませてくれた。
 
 先日乗った航空会社は、飯が有料、ビールを頼んだら有料、寒いから毛布をくれと言ったら有料、なんでもカネカネカネなので、怖くなって不細工なCAに話し掛けることすら出来なくなってしまった。話し掛けただけで金を取られるのではないかと。


 と、後半、ぜんぜん関係ない話になってしまったが(すまん)、これらのトラブルから鑑みるに、日本人の「姓・名」の順で書くアルファベット表記は、まだ世界的には浸透していないようである。
 でもきっとフラッグ・キャリアだとそんなことはない。格安航空券であることによる問題点と思われる。ここのところフラッグキャリアなんて南朝鮮とシナぐらいしか乗ってない。上記「航空券の再発行」となった航空会社はみな新進のマイナー航空会社である。そういうことなのだ。みんなビンボがわるいんや。ビンボだけど上の「カネカネカネ」の航空会社だけはもうやめようと思う。みじめを噛み締めつつ街で生きているのに、飛行機の中でまでそうはなりたくない。数万円安かったとしても、あの惨め感はそれ以上だ。私の経験を他山の石にしていただきたい。格安飛行機会社はやめたほうがいい。
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2001年に始めたサイトMone's World--http://monetimes.web.fc2.com/の出張版ブログ【木屑鈔】Boku-setsu-shouです。
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