藤圭子&沢木耕太郎「流星ひとつ」考.21──いま発刊する理由、元夫と実娘の想い、もうひとつのif

ryusei

 34年間伏せてきた作品を、なぜ今ごろ、藤圭子の自殺のあとに緊急出版することにしたのか。「葬式商売」「ひとの不幸で儲ける」との批難は避けられまい。それは完全主義でありデビュー以来爽やか路線を貫いている沢木耕太郎には似合わない。そう言われることを承知でなぜ出版に踏みきったのか。
 沢木はその理由に「後記」の中で触れている。とてもよくわかる理由だったが、同時にある種の確執も生むのではないかと気になった。結果、その通りになる。



 沢木は封印していたインタビュー構成の本──1979年にしたインタビューを2013年に発刊だから34年ぶり──をいま発刊する理由として、藤の自殺後の元夫・宇多田と実娘ヒカルの発言をあげていた。元亭主と娘は藤圭子の死を「長年精神を病んだ末に死んだ」としていた。今までの苦労もいくつか披露していた。それは事実だろう。一緒に暮らしていたふたりの話である。夫と娘の話なのだ。藤のいくつもの奇行からも彼女が精神を病んでいたことは推し量れる。その病の果ての自死だった。
 
 それに対して沢木は、「元夫と娘により、そう片づけられてしまっては気の毒だ。そうではない時代の藤圭子を伝えたいと発刊の決意をした」と言う。これはこれで意義がある。だが他人からそう言われたら、元夫と実娘が愉快のはずはない。なにしろ「6回の結婚離婚を繰り返した仲」なのだ。



 なぜこの時期に『流星ひとつ』を出したかの理由について、沢木は
インターネット上の動画では、藤圭子のかつての美しい容姿や歌声を見たり聴いたりすることができるかもしれない
 とした上で、「だが」と続ける。

彼女のあの水晶のように硬質で透明な精神を定着したものは、もしかしたら『流星ひとつ』しか残されていないのかもしれない。『流星ひとつ』は、藤圭子という女性の精神の、最も美しい瞬間の、1枚のスナップ写真になっているように思える
 とし、娘宇多田ヒカルが、この本を読むことによって初めての藤圭子に出逢えるのではないかと結んでいる。(太字は沢木のことば、そのまま。)
 
 私もそう思う。宇多田ヒカルは、精神を病む前の母親の、権力に媚びない、実にかっこいい精神を見て、我が母に惚れなおすことだろう。ここにある藤の姿はヒカルが生まれる前の、知らない時代の輝きだ。
 
 だがこれは元夫・宇多田に元恋人・沢木がケンカを売ったことにもなる。「アンタは藤圭子は精神を病んで自死したと言っているが、おれはアンタが出会う前の、最高に輝いていた藤圭子を知っている」と言っているのだ。それを本にしているのだ。しかも「元恋人」が。

 藤は、デビューした頃が40キロ、その後は沢木とのインタビューのころの28歳時でもずっと36キロというか細い躯である。私は、藤の肉体にデビューのころから興味はなく、よからぬ妄想を抱いたことすらないが、すくなくともそれを沢木は宇多田よりも前に知っている。その男の、いまになってのこの発言は、元亭主にとって気分のいいものであるはずがない。
 沢木はこの本を宇多田に贈ったらしい。宇多田がそのことにツイッターで触れ、批難しているのも当然の流れだった。



 藤圭子の自殺、親族だけによる葬儀、そして毎度あの一家では定番なのだが、波風を立てる藤の実兄の発言、それに反撥する宇多田父娘の発言、藤の死後、あいかわらずのニュースが続いたようだ。(私はそれらに興味を持って追ったわけではないが、海外から帰国後ネットで調べてそれなりに知った。)
 精神が不安定で、奇行が続き、結果的に年下の男性と同棲していた新宿のマンションから飛降り自殺、という藤圭子の結末は、なんともかなしいけれど、彼女の最後らしいとも思っていた。
 
 しかしそれだけで片づけられ、忘れ去られて行くとしたら、あまりに気の毒だ、自分の知っている藤圭子の透明な精神を伝えたい、という沢木の気持ちもわかる。私はこの本を読んで良かった、よくぞ出してくれた、と思っている。あの衝撃のデビューのころを思い出し懐かしんだ。いい本だと思う。しかしまた家族の「おまえなんぞになにがわかるんだ!」「今更でしゃばるな!」の気持ちも解る。



 そしてまたifとして、あのとき約束通り沢木がアメリカに行き、ふたりが一緒になったなら、藤にはまったく別の人生が展開した、精神を病むことにもならなかったかもしれない。いや、関根と河村が破綻したように、藤と沢木も長続きしなかったかも知れない。どんな道をたどっても、けっきょくは藤は宇多田と出会いヒカルを産んだのかも知れない。

 元夫が藤と沢木のことをどこまで知っているか(=藤がどこまでしゃべったか)知らないが、心の奥底には「おまえだけには言われたくない」のような気持ちもあったのではないか。(続く)
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  1. 2014/08/11(月) 13:11:57|
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