藤圭子&沢木耕太郎「流星ひとつ」考⑮──出来上がった『インタビュー=流星ひとつ』が発刊されなかった理由

ryusei

 藤圭子の突然の引退表明を知った沢木耕太郎はロングインタビューを申しこみ、受けいれられる。
 沢木が常に考えていたことはノンフィクションにおける「独自の方法」である。藤に対するこれは「インタビューだけ」で構成し、タイトルもそのまま「インタビュー」とする予定だったとか。つまりこの時点で──それはプロとして当然であるが──沢木は引退表明した藤に興味を持ちつつも、同時に自分のあたらしい手法への実験も強く意識していたことになる。しかし時と場を変えつつ、彼女に何度もインタビューしている内に、引退の決意の変らない藤の決意、「女にしておくのはもったいない」とまで感嘆する藤の侠気と潔癖さに、『流星ひとつ』というタイトルを思いつく。


 
issyunno

 このとき沢木は31歳、藤28歳。それまで沢木はもうすぐ新聞連載が始まる「一瞬の夏」(私小説+ノンフィクション=私ノンフィクションと呼ばれた、あのボクサー・カシアス内藤との話ですね)を、連載開始前に完全に完成させてしまおうと全力投球していた。しかしすでに体験済みの話である「一瞬の夏」よりも、これからの話である藤との対談をまとめることに夢中になり、それを抛りだして、この「インタビュー」を仕上げようとする。

 500枚を超えるそれは完成した。発刊準備OKである。が、「ここまで芸能界及び芸能マスコミを批判しているこの本を出したら、彼女が復帰するときの障害になるのではないか」と沢木は、「藤のもしかしたらの芸能界復帰」を懸念して出版を断念する。それほどここで藤は、芸能界の体質、芸能マスコミのどうしようもない下衆な部分を厳しく批判している。



 一冊だけ作ってアメリカに渡った藤に送った。そしてこのインタビュー構成の作品は、2013年10月という藤の死の二ヵ月後まで34年間眠ることになる。沢木の唯一の未刊行作品である。実際に藤は、二年後に芸能界に復帰したから、藤が芸能界や芸能マスコミに対して厳しい意見を言っているこの本が出なかったことは、復帰のためには役だったろう。

 いま読んでも、じつに手厳しく芸能界、芸能マスコミを批判している。そしてまた藤の発言を支持する気持ちになる。それほどこの世界はいいかげんだ。私は週刊誌の記事のつくりかたにうんざりした。
 しかしそこまで批判しながら、藤はこのわずか二年後には芸能界に復帰するのだ。もしも『流星ひとつ』が発刊されていたら、藤の復帰は難しかったろうし、よりひどいバッシングを受けたろう。しかしまた、発刊されていたら、沢木との恋愛が成就していたなら、藤は芸能界になど復帰しなかったかも知れない。



 さて、沢木がこれを発刊しなかったのは、もしかして復帰するときのために、という「藤圭子のため」だけだろうか!?
 ふたりの恋愛は成就しなかった。沢木が藤を追ってアメリカに行かなかったからだ。約束を反故にした。
 沢木がこの本を出さなかったのは、「藤圭子のため」以上に、「沢木耕太郎のため」ではないのか。

 数年前、沢木は初めて出される自身の「全集」にこれを収録しようと思った。藤から了解をもらおうと探したが外国を放浪している藤が捕まらず断念した、という。これも「もう今ならこれを活字にしても、沢木耕太郎ブランドが傷つくことはない」という判断からだったのではないか。藤と沢木の恋愛はもう遠い過去の話だ。藤は母として宇多田ヒカルという傑物を送り出し、沢木も家庭を築きノンフィクションの雄として聳え立っている。今ならこれを世に出しても、藤も沢木も傷つかない、そういう判断での「全集収録」ではなかったか。



「なぜ今!?」と問われる34年後の出版を、沢木は、「流星ひとつ」の後記で、精神を病んで自死した藤の、病んでいない時代、透明な精神の時期を、藤のファンに、とりわけ娘の宇多田ヒカルに知らせたかった、と主張している。

 しかしそれはあまりに都合のいいキレイゴトではないかと、死後タイミングよく発売されたこの本に対する批判も生じる。ノンフィクション界の雄である沢木と、自死してしまった、かつて格別の光を放った演歌界のスターのインタビュー構成の本だけであるなら、そんな批判は生じなかった。だがふたりは、このインタビューをきっかけに恋人同士になっていた。それは誰もが知っていたことである。そのことに一切触れず、「透明な精神の時期を知らせたい」では、いくらなんでも、となる。ずるいという批判は当然のごとく起きた。 (続く)
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  1. 2014/08/05(火) 23:00:41|
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