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団鬼六評伝「赦す人」大崎善生著──感想

yurusuhito 元『将棋世界』編集長、現作家の大崎善生さんによる団鬼六評伝である。
 「小説新潮」で2011年4月号から連載が始まった。それはリアルタイムで読んだ。誰よりも団さんが読むのを楽しみにしていたという。第1回目を読んだとき、すでに団さんの具合が悪く、その楽しみを叶えるため、予定をすこし早めて連載を始めたような感を受けた。 
 第1回目、第2回目を読んだ団さんは「やっぱりおもろいなあ、おれの人生は」と笑顔で感想を語ったとか。だが、そのあと亡くなってしまう。 2011年5月6日。

 すばらしい将棋界の〝旦那〟だった。山口瞳なんてのが旦那の力量もなければ器でもないのに旦那のふりをしたがり、さらにはそれを商売の一ジャンルにもしようとしたのに対し、団さんはSM小説で稼いだ金を、将棋に棋士に湯水のごとく使ってくれた本物の旦那だった。

 楽しみにしていた大崎さんの連載だったが、団さんが亡くなってしまうと気落ちして、その後、読む気が失せてしまった。私は文藝春秋のような綜合誌はあれこれ買うが小説雑誌は買わない。2回読んだのも図書館でだった。それからは図書館に行っても手にすることがなくなった。それほど団さんの死は、病状からも覚悟していたことではあったが、気落ちするものだった。『将棋世界』でも追悼特集をしている。2011年7月号。今後も将棋連盟機関誌にここまで大きな訃報特集をされる作家はもういないだろう。頭抜けた実績である。団鬼六〝旦那〟が将棋界にしてくださったことを思うと、ただの市井の一将棋ファンなのだが、首を垂れ、「ありがとうございました」と泣くだけである。
 話は飛ぶが、フランスやイタリアの絵画なんてのも、団さんみたいな貴族によって護られ、発展し、いま世界に冠たるものになっている。藝術とはそんなものだ。でも団さんは庶民から酷税で搾取した金を藝術家に払ったヨーロッパの貴族とはちがう。御自分で稼いだ金を棋士に、将棋界のために費やしたのだ。いやこんな言いかたは団さんに失礼だ、団さんには「費やす」なんて感覚はなかった。好きなものを好きなように応援しただけだ。だからこそ団さんは、昭和の、平成の、最後の本物の旦那だった。



 私はSMに興味がないので団さんのそちら方面の作品は読んだことがない。読んでいるのは将棋関係の文だけだ。それでも団さんが断筆宣言をするあたりのエピソードは痛いほどに胸を打つ。団さんのSMの舞台は和服が多いのだとか。サンスポに連載する作品のタイトルを「鴇色の蹴出し」とした。人力車から降りる芸子の裾が乱れ、鴇色の蹴出しがちらりと見えるときの色気という団さんの美学である。だがサンスポの担当者は「これでは読者は何の意味かわからない」と言い、彼の感覚で訳したタイトルが「ピンクの腰巻」だったとか。そりゃ断筆もしたくなる。

 やはり圧巻は「真剣師小池重明」に関する部分。なんともおもしろい。何度も読んでいる本なのに、裏話を聞くとまた読みたくなる。「将棋をこんなにおもしろく語れるのか」と当時感嘆したものだった。小池重明の異常な感覚に魅せられるのだが、それは何度も何度も迷惑を掛けられながらも面倒を見た団さんだから書けることだ。その迷惑を掛けられた相手を赦してしまうことが、タイトル「赦す人」になっている。

 団さんは、アマチュア将棋専門誌「将棋ジャーナル」を引き受け、巨額の赤字を出し、横浜の「鬼六御殿」を手放し、東京の借家に引っ越す。将棋に入れこんだためにすべてを失くしてしまった形だ。だがここからじわじわと「真剣師小池重明」が話題となり、売りあげを伸ばし、団さんに作家としてのあたらしい舞台を提供する。長年将棋のいい旦那だった団さんに、将棋が恩返しをしたのだ。



 先日新橋で編集者のSさんと飲んだ。Sさんは若い頃、数年間だが桃園書房に勤めていた。もしやと思って聞いてみると、横浜の(SM小説の印税で建てた、通称)鬼六御殿まで原稿を取りに行っていたとか。なんてうらやましい話だろう。
 団さんを偲んで話が弾んだ。当時25歳のSさんも、当時30歳の私も、団さんの将棋における貢献なんてわかっていない。いま55と60が、私利私慾とは無縁に、純粋に好きな将棋というものに億の金を注いだ趣味人に感謝する。うまい酒だった。お会いしたことのない団先生に献盃した。



 大崎さんの「団鬼六伝」は、私が読まなくなってからも連載は続き、2012年11月に単行本化されたらしい。忘れていた。早速購入した。
 この本の特徴は、著者大崎さんが、自分のことを語りつつ話を進めていることだ。団さんの「やまとちゃんによろしく」なんてことばも度々出て来る。大崎さんがかつて『将棋世界』編集長であり、奥さんが(女流将棋界には珍しいアイドルタレントもどきにかわいい)高橋和女流棋士であることを知っているひとにはより楽しめる。でも団さんのSM小説が好きであり、将棋を知らないひとが、作家団鬼六の評伝として手にしたら、すべてが将棋絡みであるし、著者が自分のことをやたら語るし、女房のことまで出てきたりして鼻白むかも知れない。私は逆に将棋ファンとして、将棋作家団鬼六の評伝(プラス大崎善生さんの自伝)として2倍楽しめた。



 ただ、正直に言うと、叮嚀な仕事をする大崎さんの本にしては、構成が粗いように感じる。
 毎月の連載をまとめたものだからしょうがないのだろうが、すこし「行きつ戻りつ」するのが目立つ。
 本来の大崎さんなら、それらを一度分解して、もういちど整理し直すように思う。団さんが亡くなった餘韻が残る内に出版したいと急がされたのだろうか。そこがすこし残念だ。しかし将棋ファンと鬼六ファンにはたまらない一冊である。
 時間がないので、ここまでにする。あとでまたあらためて書き足す。
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  1. 2013/09/03(火) 05:00:52|
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